この記事でわかること

  • 試作と量産で、設計や品質に求められる基準がどう変わるのか
  • コスト・調達・品質管理・認証という4つの壁が起こる理由
  • 「つくりやすさ(量産性)」という設計視点がなぜ重要なのか
  • 量産移行の判断に迷ったときに確認すべきポイント

試作品は完成した。でも、そこから量産に踏み出せない。

この状況は、ハードウェア開発の現場で非常によく見られる悩みです。
試作と量産は、同じ製品をつくる工程のように見えて、求められる条件がまったく異なります。

本記事では、量産化の段階で現れやすい壁を整理し、それぞれへの対処の考え方を解説します。

1. 量産化の「壁」はどこに現れるのか

試作品が完成した時点では、量産化までの道のりは意外と見えにくいものです。
試作は「動くものを1個つくる」工程であるのに対し、量産は「決められたコストと納期の中で、同じ品質のものを繰り返しつくり続ける」工程だからです。

この違いによって生まれる壁は、主に次の5つです。

  • コスト:量産時の採算が見えにくい
  • 部品調達:部品を安定して確保できない
  • 品質管理:量産時の品質を維持しにくい
  • 認証・法規制:量産・販売には各種認証が必要
  • 量産性:試作では「つくりやすさ」が考慮されにくい

以降の章では、この5つの壁を一つずつ具体的に見ていきます。

POINT

量産化の壁は、開発の進め方の問題というより、試作と量産で「求められる基準そのもの」が変わることから生じます
まずはどこに壁があるかを技術・実務の観点から知っておくことが対策の第一歩です。

なお、要件定義の甘さや内製化の範囲、認証対応の遅れなど、開発の進め方そのものに起因する原因については、「製品化できないプロジェクトの共通点とは?ハードウェア開発でよくある失敗パターン」でも詳しく解説しています。

2. 量産化の壁①:コストが合わない

試作では部品を少量・高単価で調達しても大きな問題にはなりませんが、量産では調達コストが製品の採算を直接左右します。

試作コストをそのまま量産コストの目安にすると、実際の量産見積もりとの間に大きな乖離が生じ、「この価格では採算が取れない」という問題が量産化の入口で発覚するケースが少なくありません

コストの乖離が大きくなりやすい要因は、主に次の2点です。

  1. 少量調達時の単価と、大量調達時の単価の違い
  2. 金型(部品の形状を成形するための鋳型)や治具(組立・検査作業を補助する道具)といった、量産特有の初期投資の見落とし
    (検査治具や生産ラインの立ち上げ費用なども、量産時には発生する初期投資になります。)

量産を前提としたコスト設計は、量産開始の直前ではなく、試作段階から意識しておく必要があります。

3. 量産化の壁②:部品調達が安定しない

試作段階では1〜2個の部品が入手できれば十分ですが、量産規模の発注になると、調達の考え方そのものを変える必要があります。

特に見落とされやすいのが、次のようなリードタイム(発注から納品までにかかる期間)とロット(一度に発注する数量の単位)に関わる課題です。

  • 量産数量になると、部品メーカーへの発注から納品までのリードタイムが試作時より長くなる
  • 発注ロットが小さいと、価格・納期の両面で不利な条件になりやすい
  • 特定の部品を1社からのみ調達していると、その部品の生産終了や供給遅延が、量産計画全体の遅延につながる可能性がある

こうしたリスクに備えるための実務的な対策としては、次のような考え方があります。

  • セカンドソース(代替調達先)の確保
    主要部品について、あらかじめ代替可能なメーカー・型番を候補に入れておく
  • 内示(正式発注前に生産計画を先方と共有すること)の活用
    量産開始の数か月前から数量の見込みを共有し、部品メーカー側の生産枠を確保しておく
  • 安全在庫の設定
    供給が不安定になりやすい部品については、一定量を在庫として確保しておく

また、量産開始後に主要部品が生産終了(EOL:End of Life)となるケースもあるため、設計段階から部品の供給継続性について確認しておくことも重要です。

部品調達は「入手できるかどうか」だけでなく、「量産のペースで、必要なタイミングに、必要な数量を確保し続けられるか」という視点で設計段階から検討しておく必要があります。

リスク内容対策
リードタイムの長期化量産数量になると発注から納品までの期間が試作時より長くなる量産スケジュールから逆算した早期発注、内示による生産枠の確保
発注ロットによる不利な条件発注量が少ないと価格・納期の両面で不利になりやすい量産計画に応じたロット単位での発注設計
単一調達先への依存特定部品を1社に依存していると、供給停止がそのまま量産遅延につながるセカンドソース(代替調達先)の事前確保
供給の不安定化部品の生産終了や急な供給遅延が発生するリスクの高い部品について安全在庫を設定

4. 量産化の壁③:品質管理の仕組みが整っていない

試作段階では1個ずつ丁寧に確認できますが、量産では同じ品質のものを大量かつ安定的に確保するための仕組みが必要になります。

特に、次のような体制が整っていないまま量産に踏み出すと、不良品の大量発生や顧客からのクレームにつながりかねません。

  • 検査基準・検査工程
  • 不良品の判定基準
  • 歩留まり(生産数のうち良品として出荷できる割合)の管理体制

POINT

品質管理は、量産が始まってから整えるものではありません。
試作段階から検査のしやすさを見込んで、設計に反映させておくことが望まれます

5. 量産化の壁④:認証・法規制への対応が遅れる

製品を販売するにあたっては、認証・法規制への対応も欠かせません。
認証は種類によって取得にかかる期間や進め方が異なるため、量産スケジュールを組む段階で、どの認証が・いつまでに必要かを整理しておく必要があります

日本国内向け

PSE(電気用品安全法に基づく安全認証)などの取得が必要になるケースがある

海外向け(輸出を伴う場合)

仕向け先の国・地域ごとに異なる規制への対応が求められる
(例:欧州向けのCE、米国向けのFCC、また電子機器に含まれる特定の化学物質を規制するEUのRoHS指令など)

特に注意が必要なのは、次の2点です。

  • 設計変更と認証の関係
    認証試験で不適合が見つかり設計変更を行った場合、変更内容によっては再度認証を取り直す必要が生じ、スケジュールが大きく後ろ倒しになることがある
  • 量産スケジュールとの逆算
    認証取得には一定の期間がかかるため、「量産開始日から逆算して、いつまでに認証試験に出せる状態にするか」を先に決めておく必要がある

認証対応は、量産計画とは別工程として後回しにするのではなく、量産スケジュールを組み立てる際の前提条件として、設計の初期段階から組み込んでおくことが大切です。

6. 量産化の壁⑤:量産性(つくりやすさ)が考慮されていない

ここまで挙げたコスト・調達・品質・認証に加えて、見落とされがちなのが「量産性(Manufacturability、製造現場で実際につくりやすいかどうか)」という視点です。

試作段階の設計は「動くかどうか」に重点が置かれがちで、実際に工場のラインで組み立て・検査する担当者の立場が反映されていないことがあります。

量産性に関わる主な観点は、次の3つです。

  1. 組立性
    作業者が無理な姿勢や特殊な工具なしで組み立てられる設計になっているか
  2. 検査のしやすさ
    完成後に外観や動作を確認しやすい構造になっているか
  3. 歩留まりへの配慮
    量産時に不良が出にくい公差(部品の寸法などに許容されるばらつきの範囲)設定になっているか

これらは試作段階では気づきにくいものの、量産段階になって初めて「組み立てにくい」「検査に時間がかかる」といった形で表面化しやすいポイントです。

POINT

試作の設計を見直す際に、量産現場で作業する人の視点を取り入れることが、量産移行をスムーズにする鍵になります。

よくある質問(Q&A)

Q. 試作が完了していれば、量産化はスムーズに進みますか?

A.試作の完成度が高くても、量産化がスムーズに進むとは限りません。
コスト・調達・品質・認証・量産性はいずれも、試作段階の完成度とは別の基準で問われる項目だからです。
試作品の出来栄えとは切り離して、量産の観点からあらためて確認する必要があります。

Q. 量産化の準備は、いつから始めればよいですか?

A.試作の設計段階から、量産を見据えたコスト試算や部品の調達性、量産性の検討を進めておくことが重要です。
量産化の段階で課題が見つかると、設計変更や部品の見直しが必要となり、手戻りによるコストや開発期間への影響が大きくなりやすいためです。

Q. 社内に量産経験のあるメンバーが少ない場合、どうすればよいですか?

A.量産経験を持つ開発・製造の外部パートナーに、試作段階から設計や製造方法について相談する方法があります
試作の時点から量産を見据えた設計や部品選定、製造方法の提案を受けることで、量産化の際の手戻りを減らしやすくなります。

7. まとめ:量産化の壁は「試作段階から量産を意識した設計」で乗り越えられる

量産化で発生する壁の多くは、試作段階から次の5点を見据えた計画を立てておくことで回避できます。

  1. コスト設計
  2. サプライチェーン(部品調達)
  3. 品質管理体制
  4. 認証・法規制対応
  5. 量産性(つくりやすさ)

量産化の課題は、できるだけ早い段階で整理し、コストや調達性、量産性などを踏まえて検討を進めることが、製品化を成功へ導くポイントです。
社内だけで判断が難しい場合は、量産経験を持つ外部パートナーに相談することで、課題の整理や進め方の検討がしやすくなります。

カスタム設計と既存プラットフォーム活用のどちらを選ぶかといった判断については、「電子ペーパーOEM開発とは?カスタム設計と既存プラットフォーム活用の使い分け」で解説しています。

試作段階量産段階主な対策
コスト少量・高単価でも許容される調達コストが採算を直接左右する量産を前提としたコスト設計を試作段階から実施
部品調達入手できていれば問題にならない納期・価格・供給安定性が課題になる代替部品の確保、単一調達先への依存回避
品質管理1個ずつ丁寧に確認できる大量かつ安定した品質確保が必要検査基準・歩留まり管理体制の事前整備
認証・法規制対応が後回しになりがち認証取得の遅れが販売開始を左右する認証取得期間を量産スケジュールに組み込む
量産性(つくりやすさ)動作確認が中心で組立性は問われにくい組立性・検査性・歩留まりが表面化する現場目線での設計見直し、公差設定の最適化

量産移行の前に確認しておきたいこと

  • 試作は完了しているか
  • 量産時のコスト試算はできているか
  • 部品調達の安定性は確認できているか
  • 検査基準や歩留まり管理などの品質管理体制は整っているか
  • 認証取得のスケジュールは計画に組み込まれているか
  • 組立性・検査性など、量産現場目線での設計見直しはできているか

こんなお悩みは、ぜひ一度ご相談ください

  • 試作は完成したが、量産化の目途が立たない
  • 量産コストが試作段階の想定より大きく上振れしそうだ
  • 部品調達が不安定で、量産に踏み出す判断ができない
  • 認証取得の進め方や、必要な期間がわからない

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